発動機は、私にとって原風景のひとつでした。まだ小学校にも行かぬ頃、家族ぐるみの農作業の傍らには、いつも発動機がありました。黒く、重く、油くさいその塊は水と燃料を得て、いったん始動開始されればそれは力強い、頼もしい存在と化すのです。玩具のあまり無かった時代です。田んぼの土で発動機の模型を作ったことを憶えています。
そして時は移り、世の中はいつしか発動機を必要としなくなってきました。発動機のプーリーにベルトをかけ脱穀機を回していたのが、いつの間にか脱穀機が発動機を飲み込み、自動脱穀機となり、コンバインとなり、一体化していったのです。農業機械は飛躍的な発展を遂げました。そして、使命を終えた発動機は1台、1台と姿を消していったのです。
いまや産業遺物となってしまった、発動機。そのノスタルジーが私を油まみれにさせるのです。以下は私と発動機との物語です。